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福岡高等裁判所 昭和30年(う)2637号 判決

控訴人 被告人 吉賀勝

弁護人 武井正雄

検察官 辻本修

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中五十日を、被告人に対する原判決の懲役刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人武井正雄竝びに被告人各自提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

右両控訴趣意(事実誤認)について。

苟も現に賍物たるの情を知りながら、これを買受ける以上、その買受が他人の損益計算において行わるると否とを問わず、賍物故買罪の成立を妨げるものではない(大正六年一〇月二四日大審院判決、同判決録第二三輯一一〇〇頁参照)。被告人は原判示金庚順方に一時雇用され同人の営んでいる金属回収業の手伝いをしていたもので、原判示物件を被告人が買受けたものでないのみならず、雇主である金庚順の指示に従つて機械的に手伝つたにすぎないのであるから、被告人に対し賍物故買罪を以て間擬した原判決には重大な事実誤認の違法があると主張し、被告人が右金庚順に雇用され同人のため同人の損益計算において買受けたものであることは、まことに所論のとおりであるけれども、原判決挙示の証拠によれば、原判示小山五十三から買受方の申込を受けたのは被告人であり、雇主である金庚順に相談してこれが買受の承諾をし、更に被告人が原判示物件の引渡を受けているのであつて、前示金庚順は代金支払に際しこれを出金してやつた程度で、本件物件の買入は被告人が右雇主金庚順のため同人の損益計算において買受けたものであることが窺知されるばかりでなく、右引渡を受けるに際し本件物件の賍品たるの情も察知していたことが優に認められる。原判決も亦前示趣旨のもとに被告人が雇主金庚順のため同人の計算において買受行為をなしたものである旨認定したものであることが明白であるから、原判決に所論のような事実誤認の違法があるということはできないのみならず、その他の所論は要するに原審の採用しなかつた被告人竝びに原審証人小山五十三の各供述記載を根拠として独自の見解を主張するもので到底採用の限りでなく、又採証法則にも何等違背した点は認められない。従つて論旨はいずれも理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条に従い本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入につき刑法第二一条を訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第一八一条第一項但書を、それぞれ適用して、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 大曲壮次郎 裁判官 厚地政信)

被告人の控訴趣意

三、公訴事実賍物故買被告人吉賀勝対比検察官の取調べは何々であつて終始被告を犯人として推定し論告され、裁判官も被告が前科があり何々の為住所確実でなかつたため類似手口として被告人を判決されたことを不当と主張致します。

四、公訴事実について申上げます。私は久留米市寺町三番地、林田順子方において、小山五十三氏より地金レール三本、二百斤一千六百円で買受けたとのことである。私は昭和三十年七月十四日に久留米警察署より逮捕状を持つてきましたので、私が警察にまいり係の刑事に取り調べを受けました。私は此の事について申上げましたのは、昭和三十年五月頃の朝十時頃久留米市内小頭町に自分の商売の事で小頭の公園にまいり、バタ屋の連中に、私はこんな空ビンがひろいあつめて有りませんか、とききましたところ、バタ屋の連中が自分たちは毎日ひろいあつめて居りますからのこしておきますと申しましたので、私は貴男らはいままでこんな空ビンは御金にならないだろうと申しましたら、バタ屋の連中は私にききましたので、この空ビンは粉まつ(オレンヂヂユースの)をいれるビンであるから、私は一本につき三円で買受けますからといつているところに、知らない人でありますが、二十一、二才の男が、私に貴男は寺町の林田地金商に働いておられた人でしようと、話かけましたので、貴男は私になんの用件があるのですかと申しますと、その男は私に地金がすこしありますから買つて下さいと申しましたが、私は地金の用件できたのでは有りませんと申しました。私は知らない人であるから相手にしなかつたのであります。其の日私が家に帰り、家の用事をして居りましたところ、女中が私に店にお客様が地金を持つて来たと申しましたので私が店に出てみましたら、二十一、二才の男がリヤカーに三尺四、五寸くらいのレール三本つんでありました。地金持つて来た男が、始めてでありますので、私は持つて来た男に貴男はどこの人かとききましたら、自分は市内小頭町に住んで居りますと申しましたので、貴男、此の地金はどうした地金かとききましたら、自分が買つて来た地金であると申しましたので、私は林田方の使用人であるから独断で買う事ができませんので、奥の間で、主人林田順子さんがねて居りましたので、私は主人林田さんをおこしましたので、主人林田さんは、目をさまして何の用件かと私にききましたので、私はお客さんが地金をもつてきましたから見て下さいと申しましたら、主人林田さんが見にきましたところ、此の地金買受けてよいと申しましたので、私は地金の目方をはかりましたら二百斤有りましたので、主人林田さんに二百斤有りましたと申しましたら、では御金をはらいましようと、主人林田さんが、きんこの中から二千円もつてきました。主人林田さんが私に近所のタバコ屋にいつて御金を小銭にかえてきて下さいと申しましたので、私は近所のタバコ屋に一千円をもつて小銭にかえてきました時、主人林田さんは地金をもつてきたお客さんに一千円はらつて居りましたので、私はタバコ屋でかえた御金の内からお客さんに六百円はらいましたので有ります。主人林田さんは、お客さんに商売上の帳簿にお客さんの名前と住所と拇印とのてつづきが済んでいました。係の刑事さんに、私は此んな事になると思いませんでしたと申上げたので御座います。刑事さんが私に、お前はわるい林田に働いていた事がまちがつていたからやむをえない事であると申して居ります。私は林田方の使用人であるから、いいつけどおり働いて居りましただけでありますから、今度のことについては私は間違いないと思いますと、係の刑事さんに申上げました。以上であります。

五、検事、書記官の調べを昭和三十年七月十九日受けましたことについて申上げます。吉賀お前は警察の調書にまちがいないかと申しましたので、まちがいありませんと申しました。吉賀お前はこのレール三本は林田と吉賀と共犯で買受けたものにちがいないだろうと申しましたので、私は書記官に申しましたのは、ちがいます私は林田順子方の使用人でありますから、私は独断で買受けることができませんから、主人林田と話合いの上で私は目方をはかりまして、お金を主人林田順子より受けとり、小山五十三氏に私が六百円をはらいましたので有りますと申上げました。検事、書記官の調べに対し右申上げた次第であります。

六、昭和三十年七月二十二日検事取り調べが有りました。検事さんが、私にこのレール三本を小山五十三氏より窃盗ものだと知つて買受けたのだろうと申しましたが、私は検事さんに、私は買受けたのではありません、警察の調書に書いたとおりで有りますと申しましたら、検事さんは吉賀お前のことを林田順子となにか色事に関係があるのではないかと話しましたので、私は検事さんに、何の事ですかと申しましたら、検事さんは私に知らなければよいと申しましたので、私は検事さんに事件に関係のない事までいつて下さいますなと申しました。検事さんが私にいろいろな事件があるから、あとで取り調べるからと申して寺町(林田順子方)に検事さんが電話をかけましたら、林田順子より検事さんに電話での話では(検事さんの話では)、林田順子おるか、と「おります」。「松井検事だがね、警察署まできてくれませんか」と申して居りました。林田さんは「まだ病気がなおりませんから警察署まで行けませんから」と電話で検事さんと林田順子と話合つておりました事を、吉賀勝検事調べのとき、吉賀がきいて居りました。此の事件について、検事さんと林田さんとなにか吉賀にたいしてデリケートなことがあると思います。其の後検事さんが警察の刑事部長を電話でよび、間もなく係の刑事部長が検事室にきました。検事さんと刑事部長さんと、吉賀勝の取り調べの調書を見て、こんな調書ではいかんと検事さんが刑事部長さんに申して居りました。吉賀勝と林田順子方においてのレールの件をいろいろ検事さんと刑事部長さんと話合つておりました。

昭和三十年八月七日に検察庁より私に久留米市寺町三番地の林田順子方に於て小山五十三氏より窃盗品たる事の情を知りながら、レール三本、一千六百円で買受けたものであるから、刑法第二百五十六条により賍物故買とみとめ起訴すると、私に起訴状がきましたので、私は此の事件について不審のおもいでありました。其の後五回にわたり裁判が有りましたが、検事さんが被告吉賀勝はまだ二つ三つ余罪がありますからと申しますので、裁判が六回有り、六回目にいよいよ証人調べが有りました。証人調べ、小山五十三氏、林田順子と二人、事件につき証人で有りました。裁判長が小山五十三氏に、お前はここにいる吉賀勝を知つているかとききましたら、小山は、吉賀さんは前から知りませんが、レール三本寺町の林田さん方に売りに持つて行つた時見ましただけであります、林田さん方に持つて行つた時、此のレール三本は自分が買つてきた地金でありますから、と申しました。此の吉賀さんやら主人林田さんやら、どの人が主人やら私は知りませんでした。いま考えてみると、吉賀さんが林田さんの使用人である事が分りました。自分が林田さんに地金を買受けてくれませんかと申しました所、女の人が私にちよつと待つて下さいと私を待たし、家の中に入り此の男の人と二人で出て来ました。此の男の人は私に、貴男此の地金何処からもつてきたのかと申しましたので、自分は市内小頭町に住んで居りますから安心して買つて下さい。又此の地金は自分が買受けたものでありますから、安心して買つて下さいと私が申しましたら、此の人は、自分は使用人であるから主人にきいてきますからと申しまして、家の中に入り、林田順子さんと二人で自分のところにきました。林田さんは此の使用人の人に此の地金をはかつてやつて下さいと申しましたので、使用人の人が目方を計りましたら二百斤有りましたので、林田さんに使用人の人が、そう申して居りました。林田さんは、奥の室から金庫をもつてきました。林田さんが使用人の人にお金を渡した事は、はつきり見て居りました。使用人の人が林田さんよりお金を受け取り、自分に六百円払つて呉れました。一千円は林田さんより受け取りましたことに間違いありません。小山、自分は林田さんにレール三本二百斤一千六百円で買つて貰つたが、使用人吉賀さんに売つたことは有りません。今申上げた通りであります。と申しました。

証人林田順子調べ 裁判長は林田順子さんに、貴女は小山五十三氏がレール三本を持つてきた時、貴女はどこにおられたか、とききましたら、林田さんは、自分は病気で寝て居りましたので、使用人吉賀勝さんに店の事はまかして居りましたので、もつてきたレール三本の地金も自分は見て居りません。使用人の吉賀さんが私に、お客さんが地金をもつてきて居りますので買いますが、と私に申しましたので、私は間違いの無い地金であれば買いなさい、と申しましたら、お客さんが間違いないと申して居りますがどうしますかと申しましたので、私は買いなさいと申しました。二百斤有りますからと申しましたので、私はお金を吉賀さんに渡しましたら、吉賀さんがお客さんにお金を払つて居りましたから私は使用人の吉賀さんが、こんな事になるとは思いませんでしたと、林田さんが裁判長に申して居りました。弁護士さんが林田順子証人に被告吉賀勝について聞いて居りました。林田さんの申しますには、私が旅館と地金商売している関係上、昭和二十九年十一月二十七日吉賀勝さんがお客として私の旅館に泊つて居りましたところ、私の商売も忙がしいので、吉賀さん貴男、今なんの働きをしていますかと聞きましたら、吉賀さんが考え考えちかいから刑務所に行き十一月二十七日に仮釈放五か月貰つて出所してきて四、五日しかなりませんので、引受は市内白山町の山本好彦様に引受けて貰つて出所してきましたが、なかなか働く口がありませんので、毎日働く口を探して居りますと申しましたので、貴男がよければ、家で働いてくれませんかと私が申しましたら、吉賀さんはどこで働くのも同じ事であるから働きますと申しましたから、真面目に働いてくれましたが、三十年六月二十五日に自分が粉まつ「オレンヂヂユース」の商売をするからといつて私の家をやめて自分で商売して居りました。私の家で働いている時は真面目に一生懸命に働いて居りましたが、私の家を出てから、どんなことをして居りますか私は分りませんと申して居ります。証人として、裁判長、検事、弁護士に林田順子、小山五十三氏と二人が右の通り申上げて居ります。

被告人吉賀勝が此の調べの件について申し上げます。証人小山五十三氏の申しましたことについては小山五十三氏の申上げた通りで有ります。これに異存有りませんが証人林田順子の申上げた事については、いろいろくいちがいが有りますので、裁判長に被告吉賀勝が申上げます。私はあくまで林用順子の使用人で有りますから、私は関係ないと思つて居りましたが、主人林田順子さんは、使用人の私に小山五十三氏よりレール三本を買受けたと申して居りきすが、私が独断で一回も買受けた事が有りません。主人林田順子さんが証人として申上げてる事はみんな違つて居りますが、裁判長も検事さんも、証人林田順子の申した事を本当として採り上げて居ります。証人小山五十三氏が本当の事を申して居りますのに、裁判長、検事さんが、とりあげて居りませんので、被告人吉賀勝は不安を感じて居ります。其の後検事より、久留米市寺町三番地林田順子方に於て、小山五十三氏より窃盗品たる事の情を知りながら、レール三本を一千六百円で買受けたものであるから刑法第二百三十九条により賍物故買したものとして懲役十か月の求刑がありました。弁護士さんの申しますのは、証人調べが有りました通り、証人小山五十三氏がはつきり申上げている通り、被告人吉賀勝が林田順子方の使用人であるにもかかわらず、又証人小山五十三氏が林田順子方に売りましたが、吉賀さんには売つて居りませんと申して居ります。又其の後も小山五十三氏が林田順子方に三回にわたり、地金を持つてきて居ります事は、はつきりした事実のある事がはつきりして居りますから、申すまでもなく、此の事以外にも林田順子は、いろんな地金をあつかつておる事からして林田順子に責任があると思いますから、使用人としてなんら責任がないと思います。此の事件について証人ははつきり申しておりますから、被告人吉賀勝が使用人であるうえにおいて、なんら関係ないと思います。証拠不充分として無罪を裁判長にお願い致します。と弁護士さんが申して居ります。求刑のあつた日で御座いました。検事さんが、被告吉賀にたいして検事室まできてもらいたいと申して居りましたので、私は検事さんの処に行きましたら、検事さんが、私に林田順子がいろいろ申して居るが、今度は林田順子の事を聞き入れずに、お前のいうとおりにしてやるかわりレールの件だけは事実とみとめておるからやむをえないと検事さんが私に申しますので、私は答えました。レール以外の地金を小山五十三氏より三回、四回買受けている事実がはつきりしておるにもかかわらず、検事さんは私が小山五十三氏より買受けたと申して居りますが、私には検事さんの申される事が分りません。又私が使用人として立派に扱うだけで法にかかるなら、やむをえませんが、私が出所した暁には此の事件について立派に解決致します。と私が松井検事さんに申上げましたら、松井検事さんが、あとでなにを申しても書類がないからやむをえないと申したり、私に話するので、被告の私には何うなる事やら分らないのであります。私はあくまで無罪と思います。私たちには法律のことがわかりませんので、やむを得ないと思つて居りますが、裁判というものはあくまで私は清い事だと思つて居りましたが、今度の私にたいする裁判は全面的に不服でありますから控訴致したのであります。右申上げた通りで御座います。

右に申上げました内容は、事実の事柄であり、真実被告人の意見並びに事件の真相でありまして、裁判長様の体験法則に依り被告人の真実の意中を御汲み取り下さいまして、裁判長様の自由心証におすがり致し、此の度の事件の影にひそんで居る林田順子のあやつりに依つて使用人吉賀勝を苦しい境地に落すと共に、此の被告人が現在迄作り上げた地位並びに苦労は水のあわとなり、影にひそむ処の主人林田順子の行為は社会正義に照らし許し難き事実なのであつて、罪なき人間を苦しい境地に陥し入れて置き、己の私腹を肥やすが為に、此の被告人の築いた地位並びに得意先を我がものにせんが為に、身寄りのない使用人吉賀勝を使い、総ての悪企みを計画した事は偽りなき事実でありますので、残念に思うのであります。そして被告人の致した事はあくまで、林田の使用人として用立致しました事には間違いはありません。被告人吉賀勝が使用人として致した事に間違いがあつて居りましたら御詑び致します。裁判長様の御計らいに依りまして、此の度の刑期は量刑不当につき、被告人の為め刑事法により無罪を適用下さいます様茲に謹んで御頼み申上げます。

弁護人武井正雄の控訴趣意

一、被告人は本件賍物を買受けたものではない。被告人の供述によれば、当時被告人は金庚順の手伝人であつて本件売買は金に告げて同人の指図によりしたもので、金が賍物を見て値段をきめ、代金も同人が直接小山に渡したものである。小山の証言によるも「林田に売つた」とある。金は本件買受けを否認しているが、「被告人に買受けのことは委せてあつた」「地金を買つたといつたので金を渡した」と証言しており、被告人は自ら買受けるいしなく、唯金の使用人として行動しただけで自己の計算に於ても他人の計算に於ても自ら買受けたものではない。

二、被告人は賍物たるの情を知つていない。被告人は自ら買受けるものでないから、小山が怪しいものではないといつたので、その言を信用した。徹底的に追及しなかつたことは手落ちであろうが、それだからといつて直に賍物たるの情を知つておるものと認めることはできない。

以上原判決は事実を誤認しているので、破棄し、無罪の判決を求める。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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